
妊婦健診で麻疹(はしか)の抗体検査を受けた際、結果用紙に書かれた「16倍」「EIA法8.0」といった数値を見て、戸惑われる方は少なくありません。これらの数値が何を意味するのか、自分に十分な免疫があるのか、赤ちゃんへの影響はないのかと不安になるのは当然のことです。
麻疹は感染力が非常に強く、妊娠中に感染すると重症化しやすいため、抗体検査の結果を正しく理解し、適切な対策を取ることが大切です。
この記事では、妊婦健診における麻疹抗体検査の結果の見方、数値の意味、そして抗体価が低かった場合の具体的な対策について分かりやすく解説します。検査結果に不安を感じている妊婦さんは、ぜひ参考にしてください。
妊婦健診で麻疹抗体検査を行う理由

妊婦健診では、風疹とともに麻疹の抗体検査が推奨されています。まずは麻疹という病気と、なぜ妊娠中に抗体検査が必要なのかを理解しましょう。
麻疹(はしか)とは
麻疹は、麻疹ウイルスによって引き起こされる感染症で、一般的に「はしか」と呼ばれています。空気感染、飛沫感染、接触感染のいずれの経路でも広がるため、感染力は極めて強く、免疫を持たない人が感染するとほぼ100%発症します。
麻疹の主な症状は、発熱、咳、鼻水といった風邪のような症状から始まり、2〜3日後に39℃以上の高熱と全身に赤い発疹が現れます。
感染した人の約30%に何らかの合併症が生じ、そのうち約半数は肺炎です。また、約1,000人に1人の割合で脳炎を発症するとされています。
現在、麻疹に対する有効な治療薬は存在せず、対症療法が中心となります。そのため、予防接種によって免疫を獲得することが最も重要な対策となります。
妊婦が麻疹に感染するリスク
妊婦が麻疹に感染すると、通常よりも重症化しやすいことが知られています。特に肺炎を合併する頻度が高く、母体の生命に関わる危険性もあります。
また、妊娠中の麻疹感染は流産や早産のリスクを高めることが報告されています。麻疹ウイルスは風疹のように赤ちゃんに先天性の障害を引き起こすことは少ないとされていますが、母体への影響が大きいため、妊娠中の感染を避けることが非常に重要です。
妊婦健診での麻疹抗体検査の実施時期
麻疹抗体検査は、多くの医療機関で妊娠初期(妊娠4〜12週頃)の血液検査に含まれています。風疹抗体検査と同時に実施されることが一般的です。
妊娠初期に検査を行う理由は、早い段階で妊婦さんの免疫状態を把握し、抗体価が低い場合には妊娠中の感染予防対策を講じるためです。また、産後すぐにワクチン接種の計画を立てることもできます。
麻疹抗体検査の結果の見方

妊婦健診で受けた麻疹抗体検査の結果用紙には、検査方法や数値が記載されています。これらの見方を理解することで、自分の免疫状態を正しく把握できます。
検査方法による違い(HI法・EIA法・PA法・NT法)
麻疹抗体検査にはいくつかの検査方法があり、それぞれ基準値や表記方法が異なります。検査結果用紙には検査方法が明記されていますので、まず自分がどの方法で検査を受けたのかを確認しましょう。
【EIA法(酵素免疫測定法)】
最も多く採用されている検査方法です。IgG抗体という、過去の感染やワクチン接種によって獲得された免疫を測定します。数値で表され、感度が高いことが特徴です。
HI法(赤血球凝集抑制法)
以前から広く使われてきた検査方法で、倍数(8倍、16倍、32倍など)で結果が表示されます。
PA法(粒子凝集法)
HI法と同様に倍数で表示される検査方法です。近年、感度の高さから採用する医療機関が増えています。
NT法(中和試験)
最も正確とされる検査方法ですが、時間とコストがかかるため、一般的な妊婦健診ではあまり使用されません。
検査方法が違うと判定基準も異なるため、他の人と数値を単純に比較することはできません。必ず自分が受けた検査方法の基準に照らし合わせて判断することが大切です。
抗体価の数値が示す意味
抗体価とは、血液中にある麻疹ウイルスに対する抗体の量を示す指標です。この数値が高いほど、麻疹に対する免疫力が強いことを意味します。
抗体は、過去に麻疹に感染したことがある場合、または麻疹ワクチンを接種したことがある場合に体内で作られます。一度抗体ができると、再び麻疹ウイルスが体内に侵入しても、抗体がウイルスを攻撃して発症を防いでくれます。
ただし、抗体価は時間の経過とともに低下することがあります。特にワクチン接種から長い年月が経過している場合や、もともと抗体がつきにくい体質の方では、抗体価が基準値を下回っていることがあります。
妊婦健診で測定するのは主に「IgG抗体」と呼ばれるもので、これは過去の感染やワクチン接種によって獲得した長期的な免疫を示します。
陰性・陽性の判定基準
検査結果は、使用した検査方法によって判定基準が異なります。主な検査方法別の基準値は以下の通りです。
EIA法(IgG)の判定基準
| 判定 | 数値 | 免疫状態 |
|---|---|---|
| 陰性 | 2.0未満 | 免疫なし |
| 判定保留 | 2.0〜15.9 | 免疫が不十分 |
| 陽性 | 16.0以上 | 十分な免疫あり |
※妊娠中は感染予防をより確実にする必要があるため、16.0以上を十分な免疫保有の基準としています。検査機関によっては4.0以上を「陽性」と表記する場合がありますが、妊婦さんの場合は16.0以上が推奨基準となります。
PA法の判定基準
| 判定 | 抗体価 | 免疫状態 |
|---|---|---|
| 陰性 | 16倍未満 | 免疫なし |
| 判定保留 | 16〜255倍未満 | 免疫が不十分〜やや不十分 |
| 陽性 | 256倍以上 | 十分な免疫あり |
HI法の判定基準
| 判定 | 抗体価 | 免疫状態 |
|---|---|---|
| 陰性 | 8倍未満 | 免疫なし |
| 判定保留 | 8〜127倍 | 免疫が不十分 |
| 陽性 | 128倍以上 | 十分な免疫あり |
NT法の判定基準
| 判定 | 抗体価 | 免疫状態 |
|---|---|---|
| 陰性 | 4倍未満 | 免疫なし |
| 判定保留 | 4倍 | 免疫が不十分 |
| 陽性 | 8倍以上 | 十分な免疫あり |
検査結果用紙に「陰性」と記載されている場合は麻疹に対する免疫がほとんどない状態、「陽性」と記載されている場合は十分な免疫がある状態を示します。判定保留や低い陽性値の場合は、免疫が不十分な可能性があります。
検査結果別の対応方法

麻疹抗体検査の結果によって、取るべき対応が異なります。ここでは抗体価の状態別に具体的な対応方法を解説します。
抗体価が十分にある場合
検査結果が陽性で基準値を満たしている場合、麻疹に対する免疫が十分にあります。妊娠中に感染するリスクは非常に低いため、過度な心配は不要です。
ただし、基本的な感染予防対策(手洗い、流行地域への外出を控えるなど)は継続しましょう。
抗体価が十分な母親から生まれた赤ちゃんには母親の抗体が受け継がれますが、生後6ヶ月頃から徐々に低下します。赤ちゃんが1歳になったら定期予防接種としてMRワクチンを接種しましょう。
抗体価が低い・陰性の場合
抗体価が基準値を下回っている場合、麻疹に対する免疫が不十分です。妊娠中に感染するリスクがあるため注意が必要です。
妊娠中は生ワクチンである麻疹ワクチンを接種できません。そのため、感染予防に努めることが最も重要になります。
出産後はできるだけ早期にMRワクチン接種を受けましょう。多くの医療機関では産後入院中または産後1ヶ月健診で接種できます。授乳中でも接種可能です。またワクチン接種後2ヶ月間は避妊が必要です。
抗体価が高すぎる場合
抗体価が基準値よりも著しく高い場合(EIA法で45以上、HI法で256倍以上など)、2つの可能性が考えられます。
1つは、最近ウイルスに触れた可能性です。この場合、医師はIgM抗体という感染初期に現れる抗体の追加検査を行い、慎重に判断します。
もう1つは過去の感染やワクチン接種による高い免疫です。この場合は特に問題ありません。
医師は問診や過去の接種歴、症状の有無などから総合的に判断します。抗体価が高すぎても必ずしも問題があるわけではありませんので、医師の説明をよく聞いて指示に従いましょう。
抗体価が低い妊婦が取るべき感染予防策

抗体価が低い妊婦さんは、妊娠中の感染を防ぐため、日常生活で予防策を講じることが大切です。
日常生活での注意点
麻疹は空気感染するため感染力が非常に強い病気です。特に妊娠初期から中期(妊娠20週頃まで)は、できるだけ人混みや子どもの多い場所への外出を控えましょう。
やむを得ず外出する場合はマスクを着用し、帰宅後は手洗いうがいを徹底してください。ただし、空気感染のためマスクだけでは完全に予防できません。
お住まいの地域で麻疹の流行情報が出ていないか、自治体のホームページなどで定期的に確認しましょう。流行地域への外出は避けることが推奨されます。
家族にできる感染予防対策
同居する家族(夫、パートナー、上のお子さんなど)で麻疹の抗体が不十分な方は、MRワクチンの接種を検討しましょう。特に外出機会の多い家族は優先的に接種することが推奨されます。
多くの自治体では、妊婦の家族を対象とした抗体検査やワクチン接種の助成制度があります。お住まいの自治体の保健所に問い合わせてみましょう。
家族も外出後の手洗いうがいを徹底し、発熱や発疹などの症状がある場合は、受診前に必ず医療機関に電話で相談してください。
麻疹患者との接触が疑われる場合の対応
麻疹患者と同じ空間にいたことが分かった場合は、すぐにかかりつけの産婦人科に電話で相談しましょう。
麻疹の潜伏期間は10〜12日です。接触後、発熱、咳、鼻水、目の充血などの症状が現れた場合は、すぐに医療機関に連絡してください。受診する際は必ず事前に電話で「麻疹の疑いがあること」「妊娠中であること」を伝え、公共交通機関の利用は避けましょう。
麻疹抗体検査に関するよくある質問

妊婦さんから多く寄せられる麻疹抗体検査についての疑問にお答えします。
過去に麻疹にかかったことがあれば抗体検査は不要ですか?
過去に典型的な麻疹を発症した場合、通常は生涯にわたって免疫が持続します。一度感染すると、再び麻疹を発症することはほとんどありません。
しかし、「子どもの頃にはしかにかかった」という記憶があっても、実際には風疹や他の発疹性疾患だった可能性があります。
母子健康手帳に「麻疹」または「はしか」と記載があり、医師の診断を受けた記録がある場合は、抗体を持っている可能性が高いですが、念のため検査で確認すると安心です。
ワクチンを接種していても抗体が低いことはありますか?
あります。ワクチン接種後の時間経過により、抗体価は徐々に低下します。特に接種から10年以上経過している場合、抗体価が基準値を下回っていることがあります。
また、体質によってはワクチンを接種しても十分な抗体がつきにくい方がいます。1回の接種では約95%の人に免疫がつくとされていますが、残りの約5%の方は十分な抗体が獲得できません。このため、現在は2回接種が推奨されています。
参考:MRワクチン|厚生労働省
妊娠中に麻疹ワクチンを接種できますか?
妊娠中は麻疹ワクチンを接種できません。麻疹ワクチンは生ワクチンのため、理論上、胎児への影響が完全には否定できないからです。
妊娠中は感染予防対策を徹底し、産後にワクチン接種を受けることになります。
抗体検査の結果はいつ分かりますか?
麻疹抗体検査の結果は通常5〜7日程度で分かります。妊娠初期の血液検査で実施した場合、次回の妊婦健診時に結果を説明されることが一般的です。
まとめ
妊婦健診で行う麻疹抗体検査は、妊娠中の感染リスクを把握し、適切な対策を講じるための重要な検査です。
抗体価が十分にある場合は過度な心配は不要ですが、基本的な感染予防対策は継続しましょう。抗体価が低い場合は、妊娠中に麻疹ワクチンを接種できないため、人混みを避ける、家族のワクチン接種を検討するなどの感染予防対策が重要になります。
検査結果について不安がある場合や、判断に迷う場合は、遠慮なくかかりつけの産婦人科医に相談してください。妊娠中の感染を予防し、安心して出産を迎えるために、検査結果を正しく理解し、適切な対策を取ることが大切です。
