
妊娠が分かったら定期的に妊婦健診を受けることになりますが、その中で性病(性感染症)の検査も実施されます。「自分には関係ないのでは」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、性病検査は母子の健康を守るために非常に重要な検査です。
この記事では、妊婦健診でなぜ性病検査が必要なのか、どのような検査項目があるのか、陽性だった場合の対応など、妊娠中の性病検査について詳しく解説します。安心して出産を迎えるために、ぜひ参考にしてください。
妊婦健診で性病検査が必要な理由

妊婦健診における性病検査は、母体と赤ちゃんの両方を守るために実施されます。性感染症は無症状のまま進行することが多く、妊娠中に初めて感染が判明するケースも珍しくありません。ここでは、なぜ性病検査が必要なのか、その理由を詳しく説明します。
母子感染を防ぐため
性感染症の中には、母親から赤ちゃんへ感染する「母子感染」を起こすものがあります。母子感染には「胎内感染」「産道感染」「母乳感染」の主に3つの経路があります。
母子感染が起こると、赤ちゃんに結膜炎や肺炎、重症の場合には脳障害や発育不全などの深刻な影響を及ぼす可能性があります。しかし、妊娠中に感染を早期発見し適切な治療や予防対策を行えば、母子感染のリスクを大幅に減らすことができます。
お母さん自身の健康管理のため
性病検査は赤ちゃんのためだけでなく、お母さん自身の健康を守るためにも重要です。性感染症を放置すると、子宮内膜炎や卵管炎などの炎症が広がり、早産や流産のリスクが高まる可能性があります。
また、B型肝炎やC型肝炎、HIVなどは慢性化すると肝硬変やエイズなど重篤な病気に進行する可能性があります。妊娠を機に感染が分かれば、産後も継続して適切な治療を受けることができ、将来の健康維持にもつながります。
性病検査は決して恥ずかしいことではありません。妊婦健診の一環として全ての妊婦さんに推奨されている検査ですので、安心して受けていただきたいと思います。
性病検査を受ける時期とスケジュール

妊婦健診での性病検査は、妊娠の時期に応じて適切なタイミングで実施されます。ここでは、妊娠期間中に行われる性病検査のスケジュールについて説明します。
妊娠初期(8〜12週)に行う検査
妊娠初期は最も多くの性病検査が実施される時期です。母子手帳を交付された後、初回の妊婦健診で血液検査や子宮頸部の検査を行います。
この時期に行われる主な検査項目は、梅毒検査、HIV抗体検査、B型肝炎ウイルス検査、C型肝炎ウイルス検査、HTLV-1抗体検査などです。これらの検査は血液を採取して調べます。
また、子宮頸部細胞診や膣内細菌検査も同時に実施されることが多く、子宮頸がんの有無や膣内の細菌バランスを確認します。妊娠初期に実施する理由は、万が一感染が判明しても出産までに十分な治療期間が確保できるためです。
性器クラミジア検査については、医療機関によって実施時期が異なり、妊娠初期に行う場合と妊娠16週頃に行う場合があります。
妊娠中期以降に行う検査
妊娠中期以降にも追加で実施される性病検査があります。性器クラミジア検査を妊娠初期に実施していない場合は、妊娠16週頃に検査を行います。クラミジアは母子感染のリスクが高い感染症のため、出産前に治療を完了させることが重要です。
また、妊娠後期の妊娠35〜37週頃には、B群溶血性レンサ球菌(GBS)の検査を実施します。GBSは膣内に常在する細菌ですが、出産時に赤ちゃんに感染すると新生児敗血症や髄膜炎などの重篤な病気を引き起こす可能性があります。
検査で陽性が判明した場合は、分娩時に抗生物質を投与することで赤ちゃんへの感染リスクを大きく下げることができます。
これらの検査スケジュールは医療機関や妊婦さんの状態によって多少異なる場合がありますので、担当医の指示に従って受診してください。
妊婦健診で行う性病検査の項目

妊婦健診では以下のような性病検査が実施されます。
- 梅毒検査
- HIV抗体検査
- B型肝炎・C型肝炎検査
- HTLV-1抗体検査(成人T細胞白血病)
- 性器クラミジア検査
- 淋菌検査
- B群溶血性レンサ球菌(GBS)検査
それぞれの検査には明確な目的があり、母子感染のリスクを減らすうえでとても重要です。陽性となっても適切な対策が確立されているため、過度に心配する必要はありません。
ここでは、主要な性病検査の項目について、検査内容や赤ちゃんへの影響を分かりやすくご紹介します。
梅毒検査
梅毒は梅毒トレポネーマという細菌による感染症で、近年日本国内でも感染者数が増加傾向にあります。主な感染経路は性行為ですが、キスでも感染する可能性があります。
妊娠中に梅毒に感染していると、胎盤を通じて赤ちゃんに感染し、先天性梅毒を引き起こす可能性があります。先天性梅毒では、早産や胎児死亡のリスクが高まるほか、赤ちゃんに骨や目、耳などの機能障害が生じることがあります。
梅毒検査は血液検査で行われ、妊娠初期の必須検査です。
HIV抗体検査
HIVはヒト免疫不全ウイルスのことで、感染すると免疫機能が低下し、エイズを発症する可能性があります。HIVに感染している妊婦さんが適切な対策を取らずに出産すると、約15〜30%の確率で赤ちゃんに感染すると言われています。
しかし、妊娠初期にHIV感染が判明し、適切な予防対策を実施すれば、赤ちゃんへの感染率を0.5%未満に抑えることができます。
検査は血液検査で行われ、陽性の疑いが出た場合は精密検査を行って確定診断します。
B型肝炎・C型肝炎検査
B型肝炎とC型肝炎は、肝炎ウイルスによる感染症です。どちらも血液や体液を通じて感染し、慢性化すると肝硬変や肝臓がんのリスクが高まります。妊婦さんがB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに感染している場合、赤ちゃんにも感染する可能性があります。
B型肝炎検査ではHBs抗原を調べ、C型肝炎検査ではHCV抗体を測定します。どちらも血液検査で実施されます。
HTLV-1抗体検査(成人T細胞白血病)
HTLV-1はヒトT細胞白血病ウイルス1型のことで、感染すると白血球の一種であるリンパ球の働きが弱くなります。感染してもほとんどの方は生涯発症しませんが、一部の方は成人T細胞白血病や脊髄症を発症する可能性があります。
主な感染経路は母乳感染です。性行為や血液感染もありますが、妊娠中に最も注意が必要なのは出産後の授乳方法です。
HTLV-1抗体検査は血液検査で実施されます。
性器クラミジア検査
性器クラミジア感染症は、日本国内で患者数が非常に多い性感染症の一つです。クラミジア・トラコマティスという病原菌が原因で、感染しても自覚症状がほとんどないため気づかないケースが多くあります。
妊娠中にクラミジアに感染していると、流産や早産のリスクが高まります。また、出産時に産道を通る際に赤ちゃんに感染し、新生児結膜炎や肺炎を引き起こす可能性があります。
性器クラミジア検査は、子宮頸管の分泌物を綿棒で採取して調べます。検査自体はほとんど痛みがなく、数秒で終わります。
クラミジアは性行為で感染するため、パートナーも同時に検査と治療を受けることが非常に重要です。どちらか一方だけが治療しても、再び感染を繰り返す可能性があるためです。
淋菌検査
淋菌感染症は淋菌という細菌による感染症で、クラミジアと症状が似ています。妊娠中に淋菌に感染していると、早産や子宮外妊娠のリスクが高まります。
出産時に産道感染すると、赤ちゃんに新生児結膜炎を引き起こし、適切な治療を受けないと失明する可能性もあります。
淋菌検査は子宮頸管の分泌物を採取して行います。
クラミジアと淋菌は同時感染するケースが増えているため、両方を同時に検査できる核酸増幅法が用いられることが多くなっています。
こちらもパートナーと一緒に治療を受けることが再感染予防のために必要です。
B群溶血性レンサ球菌(GBS)検査
B群溶血性レンサ球菌(GBS)は、膣内に常在菌として存在する細菌で、通常は特に問題を起こしません。しかし、出産時に赤ちゃんに感染すると、新生児敗血症や髄膜炎、肺炎などの重篤な感染症を引き起こす可能性があります。
GBS検査は妊娠35〜37週頃に、膣と肛門周辺の分泌物を綿棒で採取して行います。GBSは出産時の対策が重要なため、妊娠後期に検査を実施します。
性病による母子感染の経路と赤ちゃんへの影響

性感染症が母親から赤ちゃんに感染する経路は、主に3つに分類されます。感染経路によって予防方法や対策が異なるため、それぞれの特徴を理解しておくことが重要です。ここでは、母子感染の経路別に、どのような性感染症があり、赤ちゃんにどのような影響を及ぼす可能性があるのかを説明します。
胎内感染するもの
胎内感染は、妊娠中に胎盤を通じて赤ちゃんにウイルスや細菌が感染する経路です。主な感染症としては、梅毒とHIVがあります。
梅毒に感染している妊婦さんの場合、特に妊娠20週頃までに感染すると、胎盤を通じて赤ちゃんに感染し先天性梅毒を引き起こします。先天性梅毒では、早産や胎児死亡のリスクが高まり、赤ちゃんに骨の変形、視力障害、聴力障害などの深刻な後遺症が残る可能性があります。
HIVも胎盤を通じて赤ちゃんに感染します。適切な治療を受けずに妊娠を継続すると、約30%の確率で赤ちゃんに感染すると言われています。
胎内感染は妊娠中の早期発見と治療が最も重要で、適切な対策を講じることで感染リスクを大幅に低減できます。
産道感染するもの
産道感染は、分娩時に産道を通る際に赤ちゃんが感染する経路です。性器クラミジア、淋菌、性器ヘルペス、B群溶血性レンサ球菌、HIVなどが産道感染を起こします。
性器クラミジアに感染している場合、経腟分娩で赤ちゃんに感染すると、新生児結膜炎や肺炎を発症する可能性があります。淋菌も同様に新生児結膜炎を引き起こし、治療が遅れると失明のリスクもあります。
性器ヘルペスの場合、分娩時に活動性の病変があると赤ちゃんに感染し、新生児ヘルペスを発症する可能性があります。新生児ヘルペスは重症化すると生命に関わることもあるため、病変がある場合は帝王切開を選択することがあります。
B群溶血性レンサ球菌は産道感染により新生児敗血症や髄膜炎を引き起こす可能性がありますが、分娩時の抗生物質投与で予防できます。産道感染は分娩方法の選択や分娩時の投薬によって予防可能なものが多いため、事前の検査が非常に重要です。
母乳感染するもの
母乳感染は、出産後の授乳を通じて赤ちゃんに感染する経路です。主な感染症としてはHTLV-1とHIVがあります。
HTLV-1は主に母乳を通じて赤ちゃんに感染します。感染した赤ちゃんの多くは無症状のまま生涯を過ごしますが、一部の方は成人後に成人T細胞白血病や脊髄症を発症する可能性があります。HTLV-1陽性の場合は、母乳を与えずに粉ミルクで育てることで感染リスクを大幅に減らすことができます。
HIVも母乳を通じて赤ちゃんに感染する可能性があるため、HIV陽性の妊婦さんは母乳を与えず、完全人工栄養で育てることが推奨されています。
母乳感染は授乳方法を変えることで予防できるため、妊娠中に感染の有無を把握し、出産後の育児計画を立てておくことが大切です。
検査で陽性だった場合の治療法

妊婦健診の性病検査で陽性が判明しても、適切な治療を受けることで赤ちゃんへの感染リスクを大幅に減らすことができます。感染症の種類によって治療方法は異なりますが、妊娠中でも安全に使用できる薬剤や対策が確立されています。
ここでは、陽性だった場合の具体的な治療法について説明します。
抗生物質による治療
細菌による感染症である梅毒、性器クラミジア、淋菌などは、抗生物質による治療が基本となります。
梅毒の治療では、ペニシリン系の抗生物質を使用します。妊娠初期に感染が判明し早期に治療を開始すれば、赤ちゃんへの感染を防ぐことができます。治療期間は感染の進行度によって異なりますが、医師の指示に従って確実に服用することが重要です。
性器クラミジアの治療では、マクロライド系の抗生物質を使用します。多くの場合、ジスロマック錠を1回服用する単回投与法が第一選択となります。もし服用後2時間以内に嘔吐してしまった場合は効果が不十分なため、クラリス錠に変更して7日間服用する方法もあります。
淋菌の治療も抗生物質を使用しますが、近年は薬剤耐性菌が増えているため、感受性のある抗生物質を選択する必要があります。これらの抗生物質は妊娠中でも安全に使用できることが確認されており、胎児への影響はほとんどありません。
抗ウイルス薬による治療
ウイルスによる感染症であるHIVや性器ヘルペスは、抗ウイルス薬による治療を行います。
HIV陽性と判明した場合は、妊娠が分かった時点でできるだけ早期に抗HIV薬の多剤併用療法を開始します。ウイルス量を十分に抑えることで、母子感染のリスクを0.5〜1%未満まで低下させることができます。分娩時には抗HIV薬の点滴投与を行い、赤ちゃんにも出生後2〜6週間、抗HIV薬のシロップを投与して予防します。
性器ヘルペスの治療では、抗ヘルペスウイルス薬の内服と軟膏の併用を行います。妊娠週数によって使用できる薬剤が異なる場合があるため、胎児への影響に配慮しながら治療を進めます。
B型肝炎やC型肝炎については、妊娠中は基本的に治療を行わず、出生後の赤ちゃんへの対応を中心に行います。B型肝炎の場合は赤ちゃんへのワクチン接種と免疫グロブリン投与で予防し、C型肝炎の場合は赤ちゃんが感染しても成長後に適切な治療を行うことができます。
分娩方法の変更が必要な場合
一部の性感染症では、産道感染を防ぐために分娩方法を変更する必要があります。
HIV陽性の場合は、予定帝王切開が推奨されます。陣痛が始まる前に計画的に帝王切開を行うことで、産道を通る際の感染リスクを避けることができます。
性器ヘルペスの場合も、分娩時に活動性の病変がある場合は帝王切開を選択することがあります。新生児ヘルペスは重症化すると生命に関わる可能性があるため、産道感染を避ける必要があります。
一方、性器クラミジアや淋菌については、妊娠中に治療を完了できれば経腟分娩が可能です。B群溶血性レンサ球菌陽性の場合も、分娩時に抗生物質を点滴投与することで経腟分娩ができます。
分娩方法の選択については、感染症の種類や妊婦さんの状態を総合的に判断して決定します。
妊婦健診の性病検査にかかる費用

妊婦健診の性病検査には、公費負担される検査と自費になる検査があります。費用負担について事前に知っておくことで、安心して検査を受けることができます。
公費負担される検査項目
妊婦健診受診票(助成券)を使用することで、多くの性病検査は公費負担の対象となります。梅毒検査、HIV抗体検査、B型肝炎検査、C型肝炎検査、HTLV-1抗体検査、性器クラミジア検査、B群溶血性レンサ球菌検査などは、基本的に公費で受けることができます。
ただし、妊婦健診受診票は無料券ではなく、一定の金額を上限として助成するものです。検査内容によっては自己負担が発生する場合もあります。お住まいの自治体によって助成内容が異なるため、詳しくは通院している医療機関でご確認ください。
自費になる検査項目
妊婦健診受診票に含まれていない検査を希望する場合は自費となります。淋菌検査やトキソプラズマ抗体検査、サイトメガロウイルス抗体検査などは、自治体によっては公費負担の対象外となることがあります。
また、治療が必要になった場合の薬剤費や、陽性後の精密検査については自己負担が発生するケースもあります。心配な症状がある場合や追加の検査を希望する場合は、事前に医療機関で費用について相談することをおすすめします。
まとめ
妊婦健診における性病検査は、お母さんと赤ちゃんの健康を守るために欠かせない検査です。多くの性感染症は自覚症状がないため、検査を受けることで初めて感染に気づくケースも少なくありません。
妊娠初期から後期にかけて、梅毒、HIV、B型肝炎、C型肝炎、HTLV-1、性器クラミジア、B群溶血性レンサ球菌などの検査が実施されます。これらの検査で早期に感染を発見できれば、適切な治療や予防対策によって母子感染のリスクを低減することができます。
もし陽性が判明しても、抗生物質や抗ウイルス薬による治療、分娩方法の選択、授乳方法の工夫などで対応できます。
みなとウィメンズクリニックでは、妊婦健診の一環として性病検査を実施しております。検査結果や治療について不安なことがあれば、いつでもご相談ください。母子ともに健やかな出産をサポートいたします。
